僕はラジオ

この作品の何が素晴らしいって、実際にラジオのモデルになった人が実在すること。もう既に50歳を超えたその人は、今も映画の舞台になった高校のフットボールのチームのコーチをつとめている。

日本でも高校野球は人気だけど、家族や知人がそのチームにいるのでもなければ地元の高校のチームを熱心に応援に行ったりすることまではないだろう。でも、アメリカ人にとっては地元高校のフットボールの試合は、地元の重要なイベントのようだ。強ければなおさらである。カレッジフットボールも人気だけど、ハイスクールのまでこんなに熱心に応援する姿は、私にはかなり驚きだった。新聞にも必ず結果が報道されるし、テレビのニュースでもとりあげられるし。とにかく大騒ぎ。

で、この映画の舞台となった町は大きな町じゃないし、地元高校のフットボールはとにかく一大イベントらしい。その頃は今ほど娯楽も多くなかったのかもしれないけど、毎試合、試合の後に商店街の床屋にみんなが集まって「あーでもないこーでもない」と話し合ったりするほどの熱の入れよう。チームが勝てば、チームの監督も町の中ではとても尊敬されている。

そんな町の人びとの尊敬を集める監督が、知的障害を抱えた黒人の男の子をチームの仲間に迎え、中には反対する人もいるのに、一緒にチームを盛り上げていく様子がこの映画のテーマ。

この映画を観て、小学校のときに、同じクラスにやっぱり知恵おくれの子がいたことを思い出した。恥ずかしながら、私はこの映画の中で描かれている周囲の人たちほど、彼に優しくなかったような気がするな。小学生の頃から、障害を抱えていても、その人にできる範囲で一緒に同じことをがんばれるような環境があることは、子供にとってはいいことなんじゃないかな。変に偏見を持つことなく、障害を「その子特有の特徴」としかとらえずに過ごしていけるような気がするんだよね。

ラジオの明るさ、優しさに、まわりの人たちが少しずつ彼を受け入れ、共に楽しもうという姿勢に変わっていく。現実世界の中にもこんなふうに感動のドラマがあるのね。心温まる作品。