チョコレート

2005年5月22日
何かと完全に勘違いしていた。たぶん「ショコラ」と勘違い。そんな勘違いをもとに観始めたものだから、ストーリーが進んでも進んでも、ちっとも明るくほのぼのとした雰囲気にはならないから、思い込みがあった分逆に重く感じたのかもしれない。でも、現実の世界ってこんなもんかもって思ってしまう。

だいたい、日本語のタイトルが意味不明過ぎる。原題はMonster’s Ballとかっていうタイトルで、イギリスでは、死刑執行の前夜にものすごいパーティーを開くらしいと、この映画の中で看守同士が話をするエピソードになぞらえてのことだろう。それが「チョコレート」?映画の中でビリー・ボブ・ソーントンがいつもレストランで必ずチョコレートアイスをオーダーすることから来ているのかもしれないけど、あまりに安易すぎやしませんかね?

最近気になるのは映画のテレビCM。いくら観客動員数を集めたいからって、映画の趣旨に関わらず「売れ筋」だけでCMを作ったりする日本の映画配給会社の方針には全く賛成できない。たとえば今公開中の「キングダム・オブ・ヘブン」にしても、山田優が「心の中でずっと『オーリー!オーリー!』って叫んでました」みたいなことを言うCMが流れているけど、あのCMのせいで、すっかり作品が「バカっぽい、単なるアイドルチャラチャラ系映画」みたいになってしまっている。山田優は嫌いじゃないし、彼女は映画会社に言わされているだけなんだろうけど、オーランド・ブルームファンの女性がカップルでくれば観客動員数増えるかなみたいな、売上至上主義にもとづくCMで作品のイメージを台無しにするのはやめてほしい。まだ観ていないけど、「キングダム・オブ・ヘブン」は、チャラチャラ系映画でもなんでもなく、しっかりと作られた作品だと聞いている。しかし、あのCMでは、本当にいい映画を観たいと思っている、大人の男性たちはまず敬遠しちゃうんじゃないかな。日本の映画会社はこんなことを繰り返してばかりいるような気がする。例えば、もうずいぶんと昔の作品になってしまうけど、レオナルド・ディカプリオが出演した「仮面の男」という作品があった。ちょっとおじさんになった三銃士がメインのお話で、すごく渋くてかっこいいのに、当時は「タイタニック」でディカプリオの人気がとても高かったからという理由で、作品中ではむしろ脇役に近いような位置づけのディカプリオを前面に出したCMを流し続けて、作品にチャラチャラ系イメージをなすり付けた。そのせいで劇場には観に行かなかったけれど、後からDVDで観てみたら、ディカプリオも出演はしているけど彼はメインじゃなくて、あくまで三銃士の男たちのかっこよさがメインの映画だとわかった。
最近夫婦のどちらかが50歳以上だと二人で2000円で映画が見られるようなサービスをやって、映画業界は中高年層の客の取り込みに力を注いでいるようだけど、それなら同時に、CMの作り方も考え直そうよ。映画会社で働いている人たちって、基本的には映画が好きな人たちなんじゃないの?昔は自分で映画を制作することも夢見ていたっていう人だっているだろうに。そんな映画好きが、映画の良さを台無しにするようなCM作るって、いくらなんでもおかしすぎる。

大分話がそれたけど、チョコレートの話に戻ろう。
この作品、とにかく出てくる出来事重いことばかり。死刑執行、自殺、ひき逃げ。おまけに息子と父親が同じ売春婦を買っていたり、おじいちゃんはものすごい人種差別主義者だったり、貧乏で家賃が払えず立ち退きになったり。とにかく救いがない。そんな中で、ちょっとだけ救いがあったなと思えるのが、当初は黒人に対してものすごくひどい態度を取っていたビリー・ボブ・ソーントン演じるハンクが、黒人に対し優しい姿勢をとるようになったことだろうか。息子を失った後、以前銃で追い払ったこともある子供たちが、自分の息子に対してお悔やみを言ってくれたときにお礼を言ったり、その後車の修理を頼んだりして、黒人に対しても心を開くようになった姿にはちょっと救われた。そのことに気がつくために、ハンクはとてつもない代償を払うことになった訳だけど。

結局、親子三代看守っていうこの家庭を不幸にしたのは、ここに出てくるおじいちゃんに違いない。映画の中で、おじいちゃんの妻、つまりおばあちゃんは自殺したのだとわかる。偉そうで、相手が傷つくことを平気で言い、そんな風にして人を傷つけて自分の力を誇示しようとする姿勢が、おばあちゃんを自殺に追い込み、ハンクにもそんな尊大な態度を刷り込み、そのせいで孫も死に追いやったに違いない。もしかしたら、このおじいちゃんのお父さんもそうだったのかもしれないけどね。最後におじいちゃんが施設に追いやられるのも、家族を不幸に追いやった報いだね。最初はちょっとかわいそうにも思ったけど、このおじいちゃんだもの、そんな風になって当然だ。

この作品、全体的に暗いトーンだし、観ていても重くて厳しい。派手な演出とかもないけど、その分、役者さんの演技が光る作品なのかも。息子を失ってしまったことで、これまでの自分の生き方や考え方に疑問を持ち、少しずつ自分を変えていこうとするハンク。11年も死刑囚の夫との面会に通い、子供を育て、夫を亡くし、子供を亡くして通りがかりに手を差し伸べてくれたハンクにすがるレティシア。お互い自分にとって大切なものを無くした後、なんだか呆然とした状態から、少しずつ回復してまた何かを始めようとするその姿を、ビリー・ボブ・ソーントンは淡々と、ハル・ベリーは激しく演じていたのではないだろうか。

楽しい作品ではないけど、派手な演出も無く、ひたすら淡々と人の生きる様を描くっていう、なんか映画らしい映画って感じだった。

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